00年05月14日 よその子


「よその子」<見放された子ども達の物語>

トリイ・ヘイデン著 早川書房

<ちょっとへんだけど、それでもいいよね> ノンフェイクション。

 

小学校の補習教室を受け持つトリイのところへ、あらゆるクラスから

放り出された4人の子供が送り込まれてくる。

ブーは7歳の黒人の男の子。彼は自閉症。筋肉を硬直させ、なんにも

反応しない。彼の家族はブーのため疲労困憊し、貧しい生活を送っている。

ブーは一緒にいても、いつも「他の星」に住んでいる。

ロリは7歳。双子の妹。里親から学校に通っている。

明るく、聡明だが、幼児のとき実父からうけた暴力で脳に損傷があり、

そのため「字を読み書く」能力が欠落している。

トマソは10歳の男の子。5歳のとき、実父が義母に射殺されてから、

7つの里親を転々とした「反社会的性格」な児童。

グローリアは上流階級の12歳の女の子。彼女は度をこした内気さと

引っ込み思案をもった少女だ。そして「妊娠」している。

みんなへんな子達だ。

「あたまのおかしな子」「字が読めない女の子」「学校から放り出された

男の子」「子供のうちに妊娠した女の子」

<エピソード1>

トリイはブーから、相手と意志の疎通が出来る言葉を引き出そうと、

頑張る。いつも彼は教室のなかをぐるぐる回るか、じっと「小鳥」を

眺めていつだけ。トイレも一人で出来ない。

ブーが校庭でけがをして、病院に連れていくと、医師は局部麻酔もせず、

手術を行う。「こういう子は何も感じないんです。貴重な薬を無駄使い

しても意味がない」

トリイはブーの手術時の「悲鳴」を聞いて「こいつ(医師)を痛い目に

遭わせてやる。生まれて初めて、本気で他の人を肉体的に傷つけてやりた

かった」と思った。

<エピソード2>

ロリは明るくて、みんなの手助けが大好きだ。みんなが喜ぶことを

積極的に行う。あるときトリイの手伝いをしようとして、大きなものを

落としてしまう。トリイが駆けつけると、ロリは「硬直した顔」になって

いる。

「わたし わざとじゃないの。わざとじゃないの。だからぶたないで」

トリイは彼女を膝に乗せ、両手でず〜っと抱いて上げる。

<エピソード3>

トマソはいつも「悪者ぶってる」。教師を困らせるテクニックを

いくつも持ってる。「教材をこわしたり」、独身のトリイに向かって

「くそばばあ お前臭いよ。臭うよ」等々。

トリイは思う。彼を施設や少年院のような所へ送っても、うまく行かない。

学校を必要として子供がいるとしたらトマソだった。

<エピソード4>

ロリ 「みんなサンタなんかいないと言うけど いるよねトリイ?」

トリイはロリにはサンタが必要だと感じている。

この子達は小さいときからずっと奪われるばかりで、何一つ

与えられたことなど一度もなかったから。そんなの不公平だと。

トリイには恋人がいた。トリイは「結婚」を夢見ていた。

その恋人は去っていく。

「君とベッドにいても、いつも3人なんだ。もう一人は仕事。

 君はいつもあの子らの事ばかり、考えている」

彼女はカウチからクッションをつかんで力一杯壁に投げつけた。

「結婚もそうだが、どうして人生って、こんなに難しいの」

<エピソード5>

バレンタインデイにロリがブーに贈った広告の切り抜きの動物写真を

ブーが見ながら、犬の写真のところで「ワンワン」。

トマソがブーの側で「これはワンワンだけど、名前はベンジーだよ」。

ブー「ワンワン。ベンジー」

ロリが反対のページのネコの写真を指さす。

ブー「ワンワン」

トマソ「これはワンワンじゃないんだ。これはニャンニャン」

ブー「ニャンニャン」

トマソ「わーすげえよトリイ。ブーがちゃんとじゃべったよ!」

ロリは喜びの余り、溶けてしまいそうな気分になる。

トリイは微笑んだ。彼らが起こした小さな奇跡だと。

<エピソード6>

トマソのささやかな11歳の誕生日パーテイ。

トマソは興奮して、何度もトリイに聞き返す。

「本当に俺のためのパーテイ? そうなのトリイ? そうなの?」

この子は一度も、祝ってもらったことがないんだ。

<エピソード7>

ロリが学校に来なくなってしまう。

午前中の普通科の授業で、厳格な先生から、みんなの前で読めない

教科書を読むように迫られて、そのショックで「もう、学校には

行かない」。

トリイがロリの家を訪ねる。

トリイ「私たち間違えていたわ。あなたに読み方があたな自身より

    大切だなんて気持を抱かせたことは間違いだわ」

ロリ 「だけど私、字が読めない」

トリイ「あなたは人の気持ちがわかって、何が大切か、何が悲しませるのか

    よく、分かっているは」

ロリ 「でも私、字が読めるようになりたい」

トリイ「そうね。もし神様が私から読む力を奪いとって、それを

    あなたにあげるというなら、私、神様にそうしてもらうは」

ロリ 「でも、そうなったら、トリイはもう私の先生じゃなくなっちゃう。

    だから、それは駄目」

トリイはロリの読み書きの教材を全部、廃棄してしまう。

学校ではトリイのこの行動が問題になる。

トリイは言う

「私だって、あの子に読み書きを教えたい。でも今は、その時期じゃ

 ないんです」

学校の責任者が彼女に質問する。

「何故そんなに熱心なの。彼らはいくらやっても無駄だよ」

トリイ

「なんの役にも立たないことなんてないわ。そんなことが問題なんでは

 ないの。私にはこの仕事が大事なの。その日その日のことがすべてなの」 

<エピソード8 それぞれの旅立ち。>

学期末。

ブーは新しい自閉症専門の施設へ。

トマソは新しい里親の元へ。

トマソ 「俺、トリイを好きにならなければよかった。だって

     もう会えなくなって、寂しい想いをしなくてもすむも」

トリイ 「たしかに人を愛する事って、傷つくことなの」

トマソ 「傷つきすぎるよ。もう 俺、誰も好きにならない。

     そうすれば心配ないも」

トリイ 「誰も愛さなければ、傷つくこともないわ。

     でもね、トマソ、じゃ心って何のためにあるの?」

グローリアは出産し、あれほど育てると言っていた赤ん坊を養子

にだし(トリイはそれを勧めていた)、元の学校に戻る。

ロリは落第し、もう1年、1年生をすることになる。

泣き崩れるロリに、トリイも悔しい想いをする。

二人っきりの教室で、

ロリ 「二人だけになったね」

トリイ「お祝いする?」

   「二人だけのお祝いを」

   「なんか、そんな気分なの」

ロリ 「で、何する?」

トリイ「わかんない」

二人はじっと見つめ合う。

ロリ 「そんなに心配しないで、トリイ。

    いつも心配ばっかりしてるんだから。

    たいした事じゃないよ」

 

トリイはブーもロリもトマソもグローリアも、みんな抱きしめて

上げる。なにも出来ない、なにも変わらない。トリイはやさしく、

やわらかく一人一人を抱きかかえてあげる。

彼らはそのなかで、緊張を解き、涙を乾かす。

 

      

 

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